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神戸地方裁判所 昭和46年(ワ)321号 判決 1973年5月22日

原告 芳中もと子

右法定代理人親権者父 芳中清一

右同 母 芳中雪子

原告 芳中清一

原告 芳中雪子

右三名訴訟代理人弁護士 高木茂

被告 有限会社松野牧場

右代表者代表取締役 松野三二

被告 富田親義

右両名訴訟代理人弁護士 吉本範彦

右同 安藤猪平次

右同 分銅一臣

主文

一、被告らは各自、原告芳中もと子に対し、金三、三二四、二五七円およびこれに対する昭和四六年四月八日以降右完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二、原告芳中もと子のその余の請求および原告芳中清一・同芳中雪子の請求を棄却する。

三、訴訟費用中、原告芳中もと子と被告らとの間に生じた分はこれを三分し、その二を原告芳中もと子、その余を被告らの負担とし、原告芳中清一・同芳中雪子と被告らとの間に生じた分は全部原告芳中清一・同芳中雪子の負担とする。

四、この判決は、原告芳中もと子勝訴の部分にかぎり仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の求める裁判

一、原告ら。

「被告らは各自、原告芳中もと子に対し金九、七一八、九八二円およびこれに対する本件訴状送達の日の翌日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を、原告芳中清一および同芳中雪子に対し各金二六五、〇〇〇円ならびに右金員に対する本件訴状送達の日の翌日以降各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」旨の判決ならびに仮執行の宣言。

二、被告ら。

「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」

との判決。

第二、原告らの請求原因。

一、身分関係。

原告芳中もと子(以下単に原告もと子という。)は、原告芳中清一(以下単に原告清一という)と原告芳中雪子(以下単に原告雪子という。)との間に、昭和三〇年一月一日に長女として出生した者である。

二、本件事故の発生。

昭和四三年七月一二日午後〇時五〇分頃、兵庫県神戸市垂水区東垂水町奥乙木谷所在神戸市立垂水東中学校校庭において、被告富田親義(以下単に被告富田という。)の運転する普通貨物自動車神戸四ほ三七二八号(以下単に被告車という。)が、右校庭を歩行中の原告もと子に衝突し、原告もと子をその場に転倒させ、よって原告もと子に対し左膝部内側挫滅創・左大腿外側剥皮創・右肘部挫創の傷害を与えた。

三、被告らの責任。

(一)  被告富田は、前記日時に被告車を運転して本件事故現場である校庭内を方向変更のため後退しようとしたのであるがかかる場合自動車運転者たる者は、後方の安全を確認しつつ後退し危険の発生を未然に防止すべき注意義務があるのにかかわらず、右注意義務を怠たり漫然後退した過失により、折から左後方を歩行中の原告もと子に被告車左後部を衝突させて本件事故を惹起せしめたものである。そうすると、右事故は同被告の過失に基づくものというべきであるから、同被告は民法七〇九条により原告らが右事故によって被った後記損害を賠償すべき責任がある。

(二)  被告有限会社松野牧場(以下単に被告会社という。)は、被告車を保有し自己のために日ごろ運行の用に供していたものであるから、自賠法三条により右事故によって原告らが被った後記損害を賠償すべき責任がある。

四、損害。

(一)  原告もと子関係

(1) 治療費。

原告もと子は、前記(二記載。)傷害のため、右事故発生当日である昭和四三年七月一二日から同年八月三〇日まで五〇日間相原病院に入院し、同月三一日から昭和四四年一月六日まで一二九日間右病院に、昭和四三年九月一日から昭和四五年六月三〇日まで三〇三日間(実治療日数一〇一日間。)菩提寺小児科医院に、昭和四三年九月一〇日から昭和四四年六月一〇日まで実治療日数三〇日間藤田たまの灸術院へそれぞれ通院して治療を受けたほか同年一月一〇日から昭和四五年三月一日まで体力増進のためにんにく丸一一壜を購入して服用し、昭和四四年二月一三日から昭和四五年四月一五日まで血液循環促進体力増強のためクロレラ二〇壜を購入して服用し、その間

① 入院雑費。金六一、一七五円。

② 通院交通費。金七九、一六〇円。

③ 藤田たま灸術院の治療費。

一回金五〇〇円の割合による三〇回分の治療費金一五、〇〇〇円。

④ 服薬科。

にんにく丸一壜金五五〇円の割合による一一壜代およびクロレラ一壜金二、〇〇〇円の割合による二〇壜代の合計金四六、〇五〇円。

⑤ 付添看護料。金三、三九七、八〇五円。

昭和四三年八月三一日から昭和四五年八月三一日まで二ヶ年間(七三〇日間。)について一日金一、〇〇〇円の割合による付添看護料合計金七三万円。

同年九月一日以降、原告もと子の平均余命五〇年間について一日の付添看護料を金三〇〇円として、これをホフマン式計算方法により年五分の割合による中間利息を年毎に控除して昭和四五年九月一日現在における一時払額に換算すると、金二、六六七、八〇五円となる。

(2) 得べかりし利益の喪失による損害。

原告もと子(本件事故当時一三歳。)は、右受傷のため昭和四五年七月一八日に症状固定・両膝関節屈曲位硬直し、坐位・立位・歩行不能の後遺症で労働者災害補償保険級別五級に該当する旨の診断を受けた。右後遺症による労働能力喪失率は七九パーセントであるところ、原告もと子は、本件事故に遭遇しなければ二〇歳の時に就職し毎月平均金三万円の収入を得、就職以後四〇年間は右収益を挙げ得る予定であったので、これをホフマン式計算方法により年五分の割合による中間利息を年毎に控除して昭和四五年一月一日現在における一時払額に換算すると金四、八五九、七九二円となる。

(3) 慰藉料、金二〇〇万円。

(二)  原告清一・同雪子の慰藉料、各金二五万円。

(三)  弁護士費用、金三〇万円。

(1) 原告もと子分、金二七万円。

(2) 原告清一・同雪子、各金一五、〇〇〇円。

五、損害の一部填補。

原告もと子は、その後自賠責保険金一〇一万円を受領した。

六、よって、原告もと子は被告ら各自に対し、前記四の(一)(1)ないし(3)および同(三)の(1)の損害額金一〇、七二八、九八二円から前記五の金額を控除した残額金九、七一八、九八二円およびこれに対する本件訴状送達の日の翌日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を、原告清一および原告雪子は被告ら各自に対し、前記四の(二)および同(三)(2)の損害金各金二六五、〇〇〇円ならびにこれに対する本件訴状送達の日の翌日以降完済に至るまで年五分の割合による金員の支払を求める。

第三、被告らの答弁および抗弁。

一、請求原因一記載事実は認める。

二、請求原因二記載事実中、原告もと子の被った傷害の部位程度は否認し、その余の記載事実はすべて認める。

三、請求原因三(一)記載の被告富田に後方安全確認義務違反の過失が存したことは認める。

四、請求原因四記載事実中、弁護士費用契約の存在は認めるが、被告らの負担すべき相当性のある部分を争う。その余の記載事実はすべて争う。

五、請求原因五記載事実は認め、援用する。

六、被告らの主張。

(一)  原告もと子の関節リューマチについて。

原告もと子は、関節リューマチに罹患し、そのため昭和四〇年一〇月頃以降昭和四一年九月頃まで約一年間に亘って市立中央病院に入院し、右退院後は菩提寺小児科医院に通院して治療を受け、右医院通院初期頃は辛うじて歩行可能の症状で、痛さに耐えて自ら歩行し、強力な自動運動を継続しなければ筋硬直のために歩行不能になる状態であった。即ち、登下校・校内の歩行は、治療のために苦痛をおして行なわれていたもので、それでもなお症状が固定化して、本件事故に遭遇しなくとも歩行不能となる可能性があり、右医院の医師はたえず治療のための再入院を勧めていた程であった。従って、原告もと子のリューマチは完治の見込はなく、将来労務に服して収益を上げる可能性は皆無であり、本件事故に遭遇しなくとも、通学時等に常に親の看護を必要としていたものである。

なお、原告もと子の筋硬直は、直接外傷によるものではなく、前記リューマチによるものであるが、外傷を受けていない右足は左足治療中でも機能訓練は可能である。

(二)  過失相殺。

被告車は、前記日時に、給食用の牛乳を学校に届けるために校内に入り、バックして校外に出ようと時速四ないし五キロメートルの速度で、バックの合図信号を鳴らしながら約三〇メートル進行したところ、被告車の後方に三名の子供を認めたが、容易に子供らが避譲し得る状況であったから、そのまま進行を続けたため、原告もと子に接触したものであるから、原告もと子は、被告車の信号音によって同車が後進して来ることを知りながら、適切な処置をとらず漫然と被告車の進路内にとどまった過失がある。仮に原告もと子に行動の自由が欠けていたのであれば、同原告に付添っていた原告雪子に看護義務違反の過失がある。

(三)  被告会社は、原告もと子の治療費金三三七、二二〇円を支払い、原告らに付添看護名義で金五万円・その他の内払金二五万円を支払った。

第四、被告らの抗弁に対する原告らの認否。

被告会社が、その主張にかかる治療費・付添看護費・その他の内払金を支払ったことは認める。

第五、証拠≪省略≫

理由

一、原告らの身分関係が原告主張のとおりであることは当事者間に争いがない。

二、原告ら主張の日時場所において、本件事故が発生したことは当事者間に争いがないところ、≪証拠省略≫によると、原告もと子は、右事故のため左膝部内側挫滅創・左大腿外側剥皮創・右肘部挫創の傷害を被ったことが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

三、被告らの責任。

(一)  本件事故が被告富田の後方安全確認義務違反の過失により発生したものであることは当事者間に争いがない。しかして、右事実によると、同被告は民法七〇九条の不法行為者として原告らが右事故により被った損害を賠償すべき責任がある。

(二)  被告車が被告会社の所有で、被告会社がこれを日ごろ自己のために運行の用に供していたものであることは被告会社の明らかに争わないところであるから、これを自白したものとみなされる。しかして右事実によると、被告会社は自賠法三条の運行供用者として、原告らが右事故により被った損害を賠償すべき責任がある。

四、損害。

(一)  原告もと子関係。

(1)  治療費 金二一二、七二〇円

≪証拠省略≫によると、原告もと子は右事故遭遇の後、昭和四三年七月一二日以降同年八月三〇日まで五〇日間相原病院に入院し、同月三一日以降昭和四四年一月六日までおよび昭和四五年七月一八日に実治療日数二四日間(内往診一日を含む。)右病院に通院し、昭和四三年九月一日以降昭和四五年六月三〇日まで実治療日数一〇一日間菩提寺小児科医院に通院(家族の服薬の受領のみを含む。)して治療を受け、その他、藤田たまの灸術院へ通院しにんにく丸、クロレラを購入して服用したことが認められるところ、右相原病院における入・通院は専ら本件事故による受傷に対する治療がなされのに対し、菩提寺小児科医院への通院は、右事故遭遇前から原告もと子が罹患していた若年性リューマチ様関節炎の治療のためであり、又、藤田たまの灸術も現在の医学上必ずしも有効である旨の医師の推奨によるものではなく、原告雪子が他から聞いて来て「良いと言うものは何でもしてやろう。」との親心から施術を受けさせたものであり、にんにく丸、クロレラの服用も亦これと同じであることが認められるので、原告もと子の支出した治療費のうち、本件事故と相当因果関係あるものは、相原病院の金二一二、七二〇円のみであると解すべきで、他は本件事故と相当因果関係ある損害とは解されない。

(二)  入院雑費 金一五、〇〇〇円

原告もと子が、右事故による受傷のため、五〇日間相原病院に入院して治療を受けたことは前示認定のとおりであるところ、原告もと子の受傷の部位、程度および入院期間から見て、右入院期間中一日について金三〇〇円相当の入院雑費を要することは、当裁判所に顕著な事実であるから、原告もと子は右入院期間中に合計金一五、〇〇〇円の入院雑費を支出し、右同額の損害を被ったものと言うべきである。

(3) 通院交通費 金六、七二〇円

原告もと子の通院中、前示本件事故と相当因果関係ある相原病院へは二四日(往診一日を含む。)間通院したこと前示認定のとおりであるところ、昭和四三年八月以降昭和四五年七月頃まで原告もと子の自宅である兵庫県神戸市垂水区東垂水町荒内から同区日向一丁目の相原病院までのタクシー一往復料金が金二八〇円であることは当裁判所に顕著な事実であるから、原告もと子は、右通院に際し合計金六、七二〇円の交通費を支出し、同額の損害を被ったものと言うべきである。

なお原告ら主張の菩提寺小児科医院および藤田たま灸術院への通院は、それ自体本件事故と相当因果関係が認められないこと前示認定のとおりであるから、それに伴う交通費も本件事故と相当因果関係ある損害と解されない。

(4) 付添看護料 金一、二五三、一五四円

≪証拠省略≫によると、原告もと子の前記相原病院への入院五〇日間はもとより、右病院退院後も昭和四五年七月一八日に右受傷による障害の症状固定に至るまで、両膝関節屈曲位にて硬直しているため坐位立位不能で歩行全く不可能なため、母である原告雪子らの付添看護を終始必要としたものであることが認められるところ、右付添看護について原告もと子は特に金銭を支出したわけではないが、原告雪子の労働はこれを他に付添看護人を依頼した場合と同等に評価すべきものであると解され右付添看護人を依頼すれば一日少くとも金一、〇〇〇円の料金を支払わなければならないことは当裁判所に顕著な事実であるから、原告もと子の右昭和四三年七月一二日以降昭和四五年七月一八日までの付添看護料は

1,000円×(365×2+7)=737,000円

金七三七、〇〇〇円である。

なお、≪証拠省略≫によると、原告もと子は幼時から比較的身体の弱い女児であったが、昭和四〇年一〇月一四日以降昭和四一年九月一二日までの間リュウマチ様関節炎に罹患して神戸中央市民病院に入院して治療を受け、右病院退院直前頃の血清のRAテストは(+)三・CRPテストは(+)四・白血球数一六、七〇〇・赤沈平均値六八・四を各示し、所謂活動性を有するリュウマチ様関節炎で、右病院退院後も菩提寺小児科医院に通院して治療を続けていたが、本件事故日までその病状は波状を繰り返し、医師菩提寺幸子の診断では全快はおぼつかないものと判断され、専門病院への再入院を勧められていたこと、右事故発生前は、原告もと子の通学に際しては原告雪子が付添って送り迎えをし、又、階段の上り下りには手を引いたり肩をかしたり、避難訓練には背負ったりして修学を続けていたが、事故以前にも原告もと子には終始付添人の看護を必要とする状態にあったこと、若年性リュウマチ様関節炎は現在の医学統計上全治することが極めて困難であり、東京大学医学部小児科の発表では、二三例中全治したのは四例にすぎず、関節硬直で不具になった者が二三例中一〇例も存すること、又全治した事例では発病後四年位の期間の場合が多く、原告もと子は発病後事故までに少くとも三年間は経過しており、必ずしも全治に対する見通しは明るくなかったこと、現在原告もと子は両膝が硬直し、身の廻りのことが支弁できない状態でその状況は、生涯完治の可能性が少ないことが各認められる。

右事実によると、原告もと子は、本件事故に遭遇しなかったとしても、その余命期間を付添看護人の世話なくして生活し得る可能性は二三分の四以下の蓋然性しかなかったものと言うべきである。

≪証拠省略≫によると、原告もと子は昭和三〇年一月一日生れの女子であるから、前示症状固定の昭和四五年七月一八日現在年令一五年七月であり、同年令の女子の平均余命は、厚生省第一二回生命表によると約五九年であるので、その間の付添看護料を一日金三〇〇円の割合として計算すると、右事故と相当因果関係あるものの割合は、ホフマン式計算方法により年五分の割合による中間利息を年毎に控除して、昭和四五年七月一九日現在における一時払額に換算すると、

300円×365×27.104×4/23516,154円

金五一六、一五四円である。

(5) 得べかりし利益の喪失による損害 金一、二七九、二二〇円

原告もと子の幼少時から現在に至る病歴については前示((4)判示。)認定のとおりであるところ、≪証拠省略≫によれば原告もと子は昭和四五年七月一八日に症状固定・労働者災害補償保険級別五級の後遺症を残すものと認定されたことが認められる。右後遺症による労働能力喪失率は労働省労働基準局長通達(昭和三二年七月二日基発第五五一号。)によれば七九パーセントで、若し原告もと子が右後遺症を残さなければ二〇歳の時に就職し毎月平均約金三七、九七四円(昭和四四年賃金センサス参考、賞与等手当を含む。)の収入を得、就職以後四〇年間は右収益を挙げ得る予定であったが、原告もと子の事故前から有するリュウマチ様関節炎の全治率は前示の如く二三分の四であるから、これをホフマン式計算方法により年五分の割合による中間利息を年毎に控除して昭和四八年一月一日現在における一時払額に換算すると、

37,974円×0.7930,000円

(30,000円×12×22.293-30,000円×12×1.861)×4/231,279,220円

金一、二七九、二二〇円である。

(6) 慰藉料 金二〇〇万円

前示本件事故の態様、原告もと子の受傷の部位・程度および治療経過・後遺症ならびにその他諸般の事情を考慮すると原告もと子が右事故によって被った苦痛に対する慰藉料は金二〇〇万円と定めるのが相当である。

(7) 弁護士費用 金三〇万円

原告もと子が本件事故による被告らに対する損害賠償請求訴訟について、原告訴訟代理人弁護士高木茂との間に弁護士報酬契約を締結したことは当事者間に争いがないところ、本件訴訟の難易・審理経過・認容額その他諸般の事情を考慮すると、原告もと子が被告らに対して請求し得る弁護士費用は金三〇万円をもって相当とする。

(二)  原告清一・同雪子関係。

(1)  慰藉料

本件事故の態様、原告もと子の受傷の部位・程度、治療経過、後遺症の状況については前示認定のとおりであり、原告もと子の父母として原告清一・同雪子が多大な心痛を被ったことは推認に難くないのであるが、原告もと子の現在の症状を招いた原因が同人の従来から罹患していた病気にも帰因するものであることを考慮すると、原告清一・同雪子が被告らに対して固有の慰藉料を請求できるとは考えられず、右原告らの請求は失当である。

(2)  弁護士費用

原告清一・同雪子の慰藉料請求が失当である以上、同人等の弁護士費用の請求も亦その理由がない。

五、過失相殺

本件事故が被告富田の後方安全確認義務違反の過失により惹起したものであること前示(三判示。)認定のとおりであるところ≪証拠省略≫によると、原告もと子は右事故現場附近を歩行中、ブザーを鳴らして後退しつつある被告車を認めたので一旦道路の右端に避難したが大丈夫だろうと軽信して被告車の方を向いて歩行を開始し、被告車に接触したものであることが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。そうすると、本件事故は、被告富田の前示過失と、原告もと子の安全確認義務違反の過失が競合して惹起されたものと言うべく、車の種類・事故の場所・過失の態様等その他諸般の事情を考慮すると、その過失の割合は、被告富田の九八パーセントに対し、原告もと子の二パーセントと解するのが相当である。

六、損害の一部填補

原告もと子が、その後、自賠責保険金一〇一万円を受領し、被告会社が治療費金三三七、二二〇円、付添看護料金五万円、その他内払金二五万円を支払ったことは、いずれも当事者間に争いがない。

七、結論

以上の次第であって、被告らは原告もと子に対し各自前記四(一)の(1)ないし(6)の損害金四、七六六、八一四円の九八パーセントに相当する金四、六七一、四七七円および弁護士費用金三〇万円の合計金四、九七一、四七七円から六記載の合計金一、六四七、二二〇円を控除した差額金三、三二四、二五七円およびこれに対する本件訴状送達の日の翌日であること本件記録上明らかな昭和四六年四月八日以降完済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるものというべきであるから原告もと子の本訴請求は、被告らに対し右金員の支払を求める限度で正当としてこれを認容すべく、原告もと子のその余の請求および原告清一ならびに原告雪子の全請求はいずれも失当であるからこれを棄却すべきである。

よって、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条を、仮執行宣言について同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 鈴木清子)

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